介護の現場を見ていると、ふと「計算」にたとえたくなる瞬間があります。
ここでいう“計算”とは、数学の能力ではありません。
「人と関わる姿勢」の違いです。

ある人は、日々「足し算」をしています。
利用者と交わす小さな挨拶、仲間へのねぎらい、さりげない気配り。
それは一見目立ちませんが、チームや空気を少しずつ温かくしていく力があります。
またある人は、「引き算」をしています。
負担が大きくならないように、無理を減らしたり、イライラを鎮めたり。
誰かの負担を減らすことに意識を向ける人も、組織には欠かせない存在です。

一方で、「掛け算」をする人もいます。
何かを思いついてすぐ提案したり、仕組みを変えたり、影響力を倍にしていく。
現場で起きていることを捉え直し、組織全体に波を起こす力です。
そして、「割り算」が得意な人もいます。
限られた人員でどう回すか、コストと時間のバランスはどうか。
経営やマネジメントを担う人が持つべき視点であり、持っていなければ成り立たない現実もあります。
このように、どの“計算”にも意味があります。
足し算がなければ心が通わず、引き算がなければ疲弊し、掛け算がなければ発展せず、割り算がなければ持続しません。
けれど、実はもう一つ、見過ごせない存在がいます。
それは、何もしない人です。
足し算もしない。
引き算も考えない。
掛け算は他人まかせ。
割り算は「誰かが決めればいい」と思っている。
もちろん、そうなってしまった背景には理由があるかもしれません。
自信のなさ、過去の失敗、評価されない悔しさ――。
でも、組織にとって一番困るのは、「ゼロにとどまること」です。
ゼロは悪ではありませんが、変わろうとしないゼロは、やがて周囲のエネルギーを奪っていきます。
だからこそ、リーダーや管理職がまず考えるべきは、
「どうやって掛け算を増やすか」ではなく、
「どうすれば、足し算や引き算を“したくなる空気”ができるか」なのだと思います。
小さな成功体験、誰かに感謝された瞬間、意味を感じた言葉。
それらが、人を“ゼロから一”へと動かすことだと私は考えています。