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アセスメント力を向上させるために必要なことは?

アセスメント力を向上させるために必要なことは?

アセスメントは評価や査定を意味する英語の「assessment」からきている言葉です。介護分野で用いられるより以前から、看護や福祉、産業界においても幅広く用いられています。どの領域でもその意味するところは、調査や分析から対象となる物事や人の客観的な評価を行い、そこから課題や計画に結びつけていくことと言えます。 この記事では、介護現場におけるアセスメント力を向上させていくために必要な要素について解説していきたいと思います。

1、介護におけるアセスメントの4要素

介護におけるアセスメントは一般的に「介護過程」の中で「アセスメント」「計画」「実施」「評価」という4つのプロセスの最初に位置付けられているものです。 このアセスメントについて『新・介護福祉士養成講座9 介護過程(中央法規出版)』では「情報の収集」「情報の解釈・関連付け・統合化」「課題の明確化」の3プロセスがあり、その目的は「必要な支援とその理由」を明確にして利用者に関わる介護職で共有することと説いています。 つまり、アセスメント力を向上していくためには、3つのプロセスを向上させていくことが重要であり、さらにアセスメントを経て「必要な支援とその理由を関係する介護職に共有する」ことができて初めて意味のあるアセスメントになると言えるわけです。  では、この3つのプロセスを順番に見ていきましょう。

⑴「情報の収集」を向上させる

まずこちらの数字をご覧ください。 さて、この数字は一体何を表していると思いますか。別に何かの法則性がある数字ではありません。介護実践をする上では重要な情報だったりします。しかし、これだけではなかなかピンとくる方は少ないと思います。 このように、情報というのはただ単に集めれば良いわけではありません。その情報を意味のあるものにして、実際の介護に役立てなければならないのです。 それではどんな情報を集めれば良いのでしょうか。 こうした悩みを解決するために生み出されたものが「アセスメントシート」です。 介護保険制度ではケアマネジャーに対して「アセスメントをする上で最低これらの情報は収集してくださいね」という『課題分析標準23項目』が示されています。健康状態やADLなどの項目で、介護職の皆さんも見たことがあるかもしれません。この他にも世の中にはたくさんのアセスメントシートが存在しています。 アセスメントシートはどんなに力量差がある人が行っても、最低限着目する情報収集のポイントが示されているため、情報収集の差を縮めることができるという利点があります。 しかし、案外このアセスメントシートの項目を意識して情報を収集している方は少ないのではないでしょうか。情報収集をする上で、まずは先人が作成してくださっているこうしたアセスメントシートの情報をきちんと集めることが情報収集力の基礎力を上げていくことになるはずです。逆に言えば、最低限のポイントが示されているアセスメントシートの情報も十分に収集できていないのに、その他の情報を集めても、次のステップに進めなくなってしまいます。 ですから、まずはアセスメントシートを丁寧に活用することを目指してみましょう。

⑵「情報の解釈・関連付け・統合化」を向上させる

アセスメントの中で一番難しいとされるのがこのステップです。何が難しいかというと、「解釈・関連付け・統合化」という言葉自体が小難しいのでやる気を削がれてしまいますよね。ですから、分かりやすく解説してみたいと思います。 では、こちらの図をご覧ください。 いかがでしょうか。先ほどの数字の羅列に曜日の情報が加わりました。これで何を表す情報かわかりましたでしょうか。 はい、「1週間の気温」だと思った方は、まだ情報の精度が甘いと言えます。最低気温か最高気温かわかりませんよね。「いや、どうみても最高気温でしょ」と思った方は、自分の普段の生活という主観に引き寄せて連想してしまっています。もしかしたら、海外の熱帯地方の気温かもしれません。そうしたら、これは最高気温か、最低気温か判断が難しくなりますよね。 このように、情報というのはいくつかの情報が組み合わさることで、より客観的で精度が高い情報になるのです。ですから、先ほどのアセスメントシートは利用者さんの日常生活における課題を明らかにしていく上で最低限のポイントと言えるのです。ですから、情報は最低限の部分をまず抑えた上で、さらに個別ケースごとに情報を深掘りしていくことが重要ですね。 さて、では次の情報が加わりました。 いかがでしょうか。情報がより詳しく客観的になったことで想像できることが増えたのではないでしょうか。一番に思いつくことは「週末暑くなりそうだな」というものですよね。これが「情報同士を“関連付けて“解釈”」したということになります。 さらに、対象となる利用者さんが認知症高齢者の日常生活自立度がⅡaで一人暮らしで、自分で水分は摂るけれど、エアコンの調整がうまくできない方という情報が加わるといかがでしょうか。なんだか来週の平日のうちに、どんな対策(必要な支援)をしなければならないかが浮かび上がってきた感じがするのではないでしょうか。こうしたことが「情報を統合化する」ということなのです。 この力をつけるためには、情報と情報が重なると何がわかるか、という「知識」が必要になってきます。例えば、上記の例で言えば皆さんに「熱中症」に関する知識があるからこそ必要な支援のイメージが浮かび上がってきたはずなのです。対人援助に必要な知識について私たちは学び続けなければなりません。 もう一つこの力を上げていくためには、事例検討やケースカンファレンスが有用です。つまり、一人で考えるのではなくて、関わる専門職同士で話し合うということです。そうすると、自分一人の知識や経験だけでは解釈、関連付け、統合化しきれない情報も、他の人の知識や経験、視点が加わることで浮かび上がる必要な支援が増えてくるのです。

⑶「課題の明確化」

さて、⑴⑵の精度が高ければ、「課題の明確化」は難易度がかなり下がることがわかると思います。ですから、アセスメントの肝は⑴と⑵にあるのです。 一方で、何らかの事情で⑴⑵が十分にできないケースもあったりします。その場合は必要な支援を行う上で課題を明確にするための「情報収集」を強化するということが課題になってきたりします。そして、何の情報を収集するのかということを明確にしておくことが必要です。 漠然と情報収集が課題です、ではなくて、関わる人たちにどんな情報を集めるのかを明確に示すことで、より有益な情報を早く集めることができるからです。

2、「必要な支援とその理由」を明確にして利用者に関わる介護職で共有する

アセスメントの3つのプロセスを経たら、これを関わる介護職に共有しなければなりません。その時、アセスメントの精度が高いほど「なぜこの支援を行うのか」という理由(根拠)を明確に示すことができます。 それを具体的な書面に表したものが計画書になります。本来であれば、全ての利用者さんのアセスメントから計画を全ての介護職に共有すべきではありますが、なかなか現実的に難しい現場も多いと思います。 ですから、アセスメントの精度を高めることが、結果として共有しやすさにつながるのです。加えて、今後はICTによる情報共有など、テクノロジーなどを活用しながら、共有の効率化を図ることも重要になってきます。

3、まとめ

アセスメントの精度が高まることで、より具体的で根拠ある支援を共有し、利用者さんの生活の質向上につながります。 アセスメント力を向上させるためには、①アセスメントシートの活用による基本的な情報収集を丁寧に行うこと、②情報を解釈、関連付け、統合化するために、知識を身に付けたり、話し合いの場を活用すること、③これによって課題の明確化につながっていく、ということが見てきたと思います。 アセスメントは対人援助専門職の基本的な能力であり、最も奥が深く実践が難しい専門性でもあります。一朝一夕で向上するものではありませんので、日々力量を上げていけるように、日常業務に以下に組み込んでいけるかという組織的な取り組みも重要になってくると思います。 利用者さんに対する支援の質の向上につなげていくためにも、アセスメントをもう一度見直してみたいですね。

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