介護現場におけるチームづくりは国も推奨する現場の重要課題の一つです。現場に良いチームがあると、様々な成果を上げることができます。
では、その成果を上げるチームづくりに必要なものはなんでしょうか。本記事では主にチームの要であるリーダーの視点から考えていきたいと思います。
1. チームそのものを理解しよう
成果を上げるチームづくりを考える前に、そもそも「チーム」とは何かわかりますか。チームが何かを理解することは、成果を上げるチームづくりに直結する重要な点ですのでしっかりおさえていきましょう。まず、「チーム」と似たような言葉に「グループ」があります。では、以下に挙げるものは「チーム」でしょうか「グループ」でしょうか。ちょっと考えてみてください。
A:甲子園を目指す高校の野球部
B:会社の仲良し女性職員5人組
C:ある利用者を支援する、ケアマネ、訪問看護師、主治医、ヘルパー
D:高校生の時の部活の友達
E:研修会場で一緒になった6名の班
いかがでしょうか。答えは後で述べますので、まずはチームに必要な条件を見ていきましょう。
1―1 チームに必要な条件
- チームに必要な条件の第一は「存在する明確な目的」があることです。チームもグループも人が集まっている状態に変わりはありませんが、両者の大きな違いがここにあります。つまり、チームに集まっている人たちは、その目的を達成するために集っているのです。ですから、明確な達成するべき目的がない集団はグループになってしまうのです。
- チームに必要な二つ目の条件は「目標の理解」があることです。①で述べた『目的』とはそのチームが目指す最終ゴールの事。『目標』とは目的に到達するまでに通過するステップのことです。例えば、「旅行で楽しい思い出を作る」という目的があったとしたら、目標は「いつまでに宿の予約をする」「滞在中に見たい観光名所3つをめぐる計画を作る」などになります。目標が達成されていくことで、結果として目的に到達できるというものです。この目標の理解がチームにおいては重要になります。
- そしてチームに必要な三つ目の条件は「チームの目的・目標の共通認識」があることです。第一条件の「目的」と第二条件の「目標」があったとしても、チームメンバー全員がそのことを理解して、きちんと共通の認識を持っていなければチームとしては成立しなくなります。特定の誰かや一部のメンバーだけが目的と目標のために頑張っていても、我関せずというスタンスのメンバーがいては、その集団はチームとしては分裂や停滞の危機に瀕してしまいます。
1―2 集団はチームに変化する
以上、チームに必要な3つの条件「目的」「目標」「共通認識」を踏まえた上で、もう一度A〜Eを見ていきましょう。
まずAとCはチームとしての条件が整っている可能性が高いものだとわかります。
Aは「甲子園を目指す」という目的があります。その上で、日々の練習や予選を勝つなどの目標と、これらが部員間で共通認識されていればチームと言えるでしょう。
Cは「ある利用者の支援」という目的があって、他職種が集っているわけです。いわゆる他職種連携ですが、それぞれが職業倫理やケアプランなどに則っていれば基本的には「目標」や「共通認識」もあるでしょう。
さて、ではB、D、Eはどうでしょうか。この3つは集っている理由に何か明確な目的があるわけではなさそうなので、単なる人の集い=グループになります。
しかし、このグループに「目的」と「目標」と「共通認識」が発生すれば途端にチームに変化するということにお気づきでしょうか。
例えば、Dの高校の部活の友達が久しぶりに飲み会で再会したとしましょう。そこで意気投合し、「今の世の中を良くするために(目的)」「一緒に会社を立ち上げよう(目標)」、という話になりました。友人らがこの目的と目標の共通認識を持ち、一緒に行動に進めばこのグループはチームになるのです。
逆に言えば、Aの高校球児たちも引退して卒業したら共通認識がある「目的」「目標」がなくなるので、高校の時の部活の友達、というグループになるのです。
1―3 チームとは何か
ここまでで、チームとは何かが見えてきましたね。そう、チームとは「ある人たちの集団」に対してその集団が「目的」「目標」「共通認識」を有することで成立する“集団の状態”なのです。状態なので、条件が揃わなければチームにはならないし、条件さえ整えばチームの状態になれるのです。
2. 介護現場でリーダーが行うチームづくり
チームとは何かをおさえたところで、本題の「成果を上げるチームづくり」について考えていきましょう。つまり、介護リーダーが自分の職場で成果を上げるためのチームを作るためには何をしたら良いかということです。
ここまで読んで頂いたら想像がつくと思います。そう、自分の介護チームメンバーに対して自分達のチームが目指すゴールである「目的」とそこに到達するために達成するべき「目標」を浸透させていくことです。チームづくりについては、チームメンバーとのコミュニケーションなどたくさんのポイントや切り口がありますが、まずはチーム成立の三条件の取り組みが最も重要なになることをおさえてください。
2−1 所属組織が目指す目的を理解する
介護リーダーがまず考えなくてはならないのは「自分のチームが目指す目的」とは何なのかを理解することです。そして、その目的は「あなた個人が目指したい目的」ではなく、あなたが所属する「組織(会社・施設等)が目指す目的」に沿ったものではなくてはなりません。
実は、あなたが管理するチームは、あなたが所属する組織という名のチームの中の一つのチーム(メンバー)ということができます。
ですから、あなたのチームが目指すべき目的は、組織全体が目指す目的から考えなくてはなりません。これらは「法人理念」だったり「法人の中長期経営計画で目指すビジョン」だったりします。ですから、まずはこうした法人全体の目的から自分のチームが目指す目的を現場に落とし込んで理解、設定する必要があります。
場合によっては、上司や経営層に教えてもらったり、意見交換をしていくことが重要かもしれません。
2−2 成果とは何か
次に成果とは何かについて考えなくてはなりません。実は成果とは、チームの三条件の「目標」と言い換えて良いものです。つまり、自分達の組織が目指す年次目標や施設目標などを達成するために、チームに求められている「目標」を理解しなくてはなりません。
成果は「目的」に比べて具体的で達成できたかどうかが明確なものになります。例えば、法人全体で「離職率を◯%に抑える」という年次目標があったとします。これに対して、あなたのチームは新人職員が仕事に慣れて働きやすい人間関係の中で専門性を上げていけるよう「新人教育担当者を3名育成する」といった目標を掲げ、それを達成できたとします。目標達成されたことで3名体制による教育担当者の手厚い教育が効果をあげ、新人職員が一人も離職せずに1年目を終えられた、ということになれば、組織が掲げる年次目標に寄与する“成果”となるのです。
2−3 目的と目標をチームメンバーに伝える
ここまで見てきたように組織全体が目指す目的や目標に沿って、自分が管理するチームの目的や目標を明確にした上で、今度はそれを自分のチームメンバーに伝えていく必要があります。
高校球児のようにそれぞれが最初から「甲子園にいきたい」というある程度共通した目的や目標を有している場合と異なり、介護現場では、多様な背景や動機で入職している職員がいます。そうした職員は介護への一定の思いが無い方もいるかもしれませんし、介護への思いが組織の中で少しずれて表現されている場合もあります。
そうした多様な職員が同じ目的と目標を持って進んでいけるように、チームの共通認識を促していくことが介護リーダーの役割なのです。ミーティングやカンファレンスの場、個別でも構いません。様々な場面を通じて、共通認識を促すことに取り組まなければなりません。ここまでができて、初めてあなたの管理する職員の集団は“チームの状態”になれるのです。
3. まとめ
チームとはある人たちの集団が「目的」と「目標」を「共通認識」している状態であり、それぞれのチームメンバーがこの目的と目標に向かってそれぞれの力を発揮しているからこそ、チームとしての成果を上げることができます。
その成果とは、介護リーダーが個人的に目指したいことではなく、所属する法人組織が目指す目的や目標に沿ったものである必要があります。
組織が目指し、それを自分のチームに落とし込んだ目的と目標を理解した上で、それを自分のチームメンバーに伝えていくこと。これが、成果を上げるチームづくりの重要な取り組みなのです。