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対談企画『e-ラーニングシステムを導入した法人は大抵この失敗をする』後編

 IDO代表の井戸とケアソーシャルワーク研究所の金山氏による対談後編。
 コロナ禍でスタートしたIDOオンラインセミナーを通じて井戸が感じた可能性と課題。そこから3年間でオンラインセミナーと社会はどのように変わったのか。そして井戸は今何を考えるのか。

1.IDOオンラインセミナーのこだわり

金山:オンラインセミナーと言っても、世の中にはたくさんの類似サービスがありますよね。IDOオンラインセミナーの特徴というか、強みってなんなんですか。

 

井戸:僕が一番にこだわったのは受講される人たちが相互に学び合う形式で、講師の話を一方的に聞くだけではなく、ブレイクアウトルームを活用して少人数で学びを振り返り、対話するセッションの時間を設けるってことなんです。

 

金山:リアル研修でいうところのグループワークの時間ってことですね。特徴というほどのインパクトはないと思いますが。

 

井戸:そう思いますよね。確かに法定研修など、受けなければいけない研修が増えてきたり、研修が時間外労働になるので人件費を抑えたいなどの声もあって、セッションの時間を作ることで講義内容をタイトにしなきゃいけないとか、研修時間が延びてしまうとかデメリットもあると思います。でも、僕たち大人援助職は、やっぱり自身の内省を行う場、他の現場の人の実践や考えに触れることが何よりの成長になると思うんです。

金山:確かにそれはそうですね。

井戸:一見面倒で無駄に思えるこのセッションが介護福祉職の人材育成に欠かせないことの一つですし、他のオンラインセミナーはやや一方通行なことが多い印象です。それはやはりセッションのデメリットを解消するため。でも、それだと一番大事な人材育成の要素を削っていることになる。

金山:そうですね。ラーニングピラミッドでも単なる講義の受講に比べて、グループ討議の学習定着率は高いと言われてますもんね。

 

井戸:これを全国の同じ階層、例えばリーダークラス同士、新人同士で、事業形態も異なるもの同士がセッションするから、視野も価値観も広がる。大きな学びになる。

 

金山:専門職に限らず人の成長に重要な要素ですね。多様な人との出会いは。

 

井戸:それともう一つこだわりがあるんですけど。金山君は介護現場の人材育成で最も不足していることはなんだと思いますか。

金山:現場教育者の不足ですね。教育する側が教育を受けていないという現状。僕がよく言っているのはスーパービジョンを行うスーパーバイザーがいない、そうした人から教育を受ける機会が圧倒的に少ない、ということをいつも思っています。

 

井戸:さすがですね。まさにそこです。今の多くの介護現場は研修を「受けること」、経営層は「受けさせること」が目的になってしまっているんですね。エビングハウスの忘却曲線があるでしょ。

 

金山:研修を受けた時が一番覚えているピークで、その後時間が経つにつれて忘れるっていうあれですね。

 

井戸:そう、まさにおっしゃったように、研修を受けた後職場に帰って、上司から学びのフィードバックを受け続け、自身が学びを実践してアウトプットしないと身につかないってことなんですよ。

 

金山:実践とスーパービジョン、まさに専門職養成ですね。介護現場に最も定着していない人材育成です。

 

井戸:まぁ、時間的、人的コストをそこまで避けないというのが実情なのだろうけど、これから介護保険制度もどんどん厳しく、質が問われていく中で、量の確保だけに終始していると。

 

金山:淘汰されますね。それに、質が伴うと離職率も下がると思います。

 

井戸:つまり、IDOオンラインセミナーはこの一見コストが掛かるけど、介護現場の人材育成の本質であるこの仕組みを導入して定着させていくというのが特徴ということなんですよ。

金山:ははは。なるほど、本質的な現場実践をやってきた井戸さんたちだからこそできることですね。単なる研修屋さんではできない、自社の強みを活かした戦略ですね。

 

井戸:時間はかかるけど、これがやっぱり一番の人材育成だと思うし、組織改革だと思うんだよね。まぁ、最初からこれを念頭に進めたというよりは、3年間やる中でやっぱりここに至ったという感じかな。

 

2. 現場と一緒に作るオンラインセミナー

 

金山:ちょっと視点を変えて伺うと、IDOオンラインセミナーって毎年カリキュラム改定してますよね。普通の学校じゃないので面倒だとは思うんですけど、これもこだわりですか。

 

井戸:確かに、一回定型的な研修や動画を作って、毎年同じことをやるっていう方がコストは掛からないし、実際法定研修で「動画見るだけで研修やらせたことにできる」ようにしてほしいというニーズもなくはないです。研修を人材育成ではなくコンプライアンスとして捉えているようなところも。

 

金山:あ、愚問でしたね。そういうところとは違う路線、ニーズに応える人材育成、組織改革を目指しているのがIDOさんでしたね。

 

井戸:そう、素敵な編集を施した動画のアーカイブがたくさんあるとか、そういうのは僕たちは目指していないし、得意でも強みでもない。もちろんすごいなぁとも思うけど。だから、僕たちは毎年カリキュラム改定をしているんです。ちょうど今が来年度に向けた改定時期ですね。

 

金山:これまでどんな改定があったんですか。

 

井戸:まず、IDOオンラインセミナーを利用頂いている法人さんたちが集まって、IDO側に意見や要望を出して頂く「研修委員会」が立ち上がったんです。特定のプランをご利用の法人さんならどなたでもご参加いただける場で、多くの忖度ない意見が出されています。その中で今年度採用したものだと…

・接遇、マナーなどの基本的な研修を設けた

・看護、リハ、事務職など介護職以外の職種のための専門職育成、全職員対象コースを設けた

・一般職向け研修は日中の就業時間内に時間を変更し、仕事中に受講できるようにした

この他にも色々な現場のご意見を伺って、取り入れてきました。

 

金山:なるほど、確かに介護現場では介護職向け研修ばかりですから、他専門職も受けられるコースはいいですね。コロナ禍では特養の看護師さんに感染症対策についてかなりの責任と期待が寄せられて、つながりがない施設看護師さんはご苦労されたという話も聞きます。

 

井戸:まさにそういう現場のリアルニーズに即した改定です。既に、来年度に向けていくつか採用する案が決まっています。例えばリーダークラスの研修を受講するリーダーたちに専属のファシリテーターをつけて、担任の先生みたいに受講生をフォローアップし続ける体制にする仕組み。他にはキャリアアップよりも、通いやすい今の職場で人間関係で悩まずに介護の仕事をしたいというニーズを持つ方向けのコースも作ります。

 

金山:なるほど、確かに夫の扶養の範囲内で、とか、子育てしながら介護を非常勤でやりたいといった多くの方々によって介護現場って支えられてますもんね。どうしてもリーダーとかキャリアアップを目指す人ばかりに注目されがちですけど、そうした方々を育成するコースというのは聞いたことはないけど、確実にニーズはありますね。

 

井戸:こうした方々はこれまで研修をただ義務的に受けさせられる、またはしっかりした研修機会がなく、資料を読んで研修受けました的にされていた実態があったと思います。

 

金山:確かに、週1回の学生さんとか、主婦の方とかにみっちり研修を時間外に来てもらって受けてもらうというのは僕も管理職をしたいた時難しかったです。

 

井戸:だからこそ、そうした人たちが組織のビジョン、リーダーの実践にコミットするフォロワーとして楽しく、気持ちよく、質高く働いてくれたら組織って変わると思いませんか。

 

金山:ですね。来期も期待できそうですね。

3.介護業界の人材育成の課題

 

井戸:まぁ、失敗も少なくなかったし、反省も多いのですが、少しずつご利用いただいている法人さんたちの現場にも変化が現れているというお話を伺えています。

 

金山:IDOオンラインセミナーの成果というところですね。例えばどんな。

 

井戸:わかりやすいもので言うと、セミナー受講者の離職率の低下です。昨年は平均8%だったものが半分くらいになっています。定期的に同じ立場の全国の仲間と顔を合わせて、学び、振り返り、悩みを話し、そして上司がそれをまた適切に現場でフォローしてくれる。この循環が起きるからこそ、仕事を前向きに質の向上を含めて取り組み続けることができるようになっているということだと思います。

 

金山:それは単純に大きいですね。人材の定着に効果が出ていると言うことですね。

 

井戸:もちろん、研修受講以外の要素もあるので、一概には言えませんが、一つの結果ではあるかなと思います。僕が大事だなと思うのは経験学習モデルによる組織の好循環と言いますか、組織が自浄的に変化していくサイクルを作ると言うことですね。

 

金山:コルブの経験学習ですか。

 

井戸:そうそう。つまり、現場実践という経験を、IDOオンラインセミナーで育成の力を身につけた上司が適切に内省を助けるスーパービジョンを行う。

金山:そして定期的なオンラインセミナーで全国の仲間とそれを振り返り、色々な意見をもらって、自分の実践力として身につけて、レベルアップしてまた実践に臨むというサイクルができているということですね。

 

井戸:おっしゃる通り。さすがですね。個人が研修を受けるというだけでなく、組織が人を育成し続ける好循環を生見出せるような環境を構築するということです。

 

金山:なるほど、まさに介護現場に一番足りていない人材育成システムを構築するという質の向上と、それによる人材の定着、働きやすい職場づくり、そして利用者への質の高い支援へとつながるわけですね。

 

井戸:まぁ、理想的にはそういうことです。ただ、理想や理論上だけでなくて、実際に3年間ご一緒させていただいた法人さんから少しずつそういう変化や成果を伺うと、方向性は間違っていなかったなと最近は確信を持てるようになりました。

 

金山:この仕組みを導入すると、中長期的かもしれないけど、土台がしっかりした組織づくりができる可能性があるということですね。経営者がどのようなビジョンや思考を持っているかによりますが、僕個人としては介護現場の人材育成の手段としては王道だと思いますね。

 

井戸:だからこそ、課題もわかるようになりました。

 

金山:と言いますと。

 

井戸:今お話ししたことの逆ですね。やはり効率化、節約、特に物価の高騰など現場経営はなかなか厳しい環境です。人材育成が大事だとわかっていても、即効性のあることが求められがちです。だから、なかなか本腰を入れた人材育成環境の構築をテコ入れしようとするには経営者の皆様も苦慮されているようです。

 

金山:介護業界の場合、新しい変革に対しては、経営者に想いがあっても、変化への抵抗を現場が示すことも少なくありませんしね。

 

井戸:それも大きいです。辞められたら困る、現場に負荷をかけたくない、という気持ちはよくわかります。ま

 

金山:でもそれが課題の根本的な解決にはならず、中長期的に見ると激化する事業環境の中で、競争力の低下に繋がってしまいますよね。

 

井戸:「e-ラーニングを導入したけど、なかなか職員が受講してくれない」という悩みも最近は増えています。今時期が来期の予算計画を考える頃ですから、どこの経営者さんもシステムの継続可否や、導入について関心が高まっているんですよね。

金山:今までのお話を踏まえると、単にe-ラーニングを導入するだけじゃ変わらないですよね。介護ロボット入れたけど使われない、というのと同じだと思います。

 

井戸:そうなんです。コロナ禍で確かにデジタルな流れが加速して、流行りになっているので、そうしたe-ラーニングシステムなども増えているので、経営者さんとしては色々な思いで導入されたと思うのでお気持ちは十分わかるんです。

 

金山:もしかしたら、e-ラーニングとオンラインセミナーの違いってご存知ない方が多いんじゃないですか。

 

井戸:そうですね。それもありますし、仕組みを入れたらなんとかなるという、業者さんの営業トークもあると思いますが、やはり経営者がどんなビジョンを持っているか、現場の課題はどうかをしっかり把握しているというのが大きいと思います。

 

金山:組織が生き物なら、経営者は組織をアセスメントしなきゃいけませんね。僕たち専門職と一緒ですね。今日井戸さんがお話しされた、理論に基づく個人と組織の変革の仕組みについて少しでも届いてほしいですね。

 

井戸:まさに。金山さんとの対談でIDOの想いを引き出していただき感謝いたします。

 

金山:いえいえ。じゃぁこの対談のタイトルは『e-ラーニングシステムを導入した法人は大抵この失敗をする』にしましょうか。お悩みをお持ちの経営者さんが読んでくださるかも。

 

井戸:金山さん、今日は素敵な聴き手でしたが、ありがとうございました。金山さんと出会えて僕は幸せです。

 

金山:読者が誤解するのでやめてください。井戸さん顔は怖いですけど、結構ラブリーなところがありますね。

 

井戸:そんな僕の一面も伝われば嬉しいです。

 

金山:今日はありがとうございました。これからも素敵なIDOオンラインセミナーで、全国の介護現場を元気にしてください。

 

井戸:金山さんも手伝ってね。

 

金山:機会がございましたら・・・

 

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