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対談企画『e-ラーニングシステムを導入した法人は大抵この失敗をする』前編

 コロナ禍が始まった2020年春。対面での研修などが制限されることが予測された中、IDOはいち早くオンラインセミナーの仕組みを構築し、階層別研修のサブスクリプションを導入。2021年4月から2022年9月までに50法人、延べ26,000人以上の方に受講頂くまでになりました。オンラインの仕組みを活用し、介護福祉現場に特化した自立支援型人材育成システムによって職員が主体的に学び、質の向上を目指す組織に生まれ変わったという声をいただいております。

 ただ、コロナ禍で隆盛したオンラインを通じた学習システムですが、その活用がうまくいかず「導入したはいいけれど職員が全く受講してくれない」といった経営者の方々からのご相談が増えてきていることも事実です。

 今回は前・後編の2回に分けて、代表の井戸がIDOオンラインセミナーのご利用法人の皆様と共に作り上げてきた3年間から得た『オンラインによる人材育成の可能性と課題』について、井戸と10年以上の交流がある、ケアソーシャルワーク研究所の金山峰之氏と対談した内容についてご報告いたします。

 

1.対談の背景について振り返る

金山:今回はお世話になっている井戸さんとお話ができて嬉しいです。

 

井戸:いやいや、僕は金山大先生の昔からファンですから。こちらの方が嬉しくて昨日は眠れませんでした。

 

金山:ははは。さて、まずは今回の対談の背景と、僕たちの背景も少し触れた方がいいですよね。

 

井戸:そうですね。金山さんもご存知の通り、I D Oはもともと、私を含めた介護福祉の現場をよく知る職員たちが、全国の介護現場の組織改革や人材育成のお手伝いをする事業をさせていただいていました。これは基本的には対面で行っていました。現地に行って現場に入り、そこの経営者、管理者、リーダー、職員さんたちと一緒にいいケアを実現していくための伴走型の支援だったんですね。

 

金山:いわゆるコンサルタントってことですよね。

 

井戸:そういってしまうと少し味気ないですが、僕はもともと現場でソーシャルワーカーとして介護福祉に携わってきたので、外からただ指導助言するっていうのは性に合わないんですよ。現場で利用者さんや職員さん、地域が見えるところで一緒に悩み考えていくような支援がしたかったんです。自分も現場で悩み実践して今があるので。

金山:なるほど、ご自身の現場経験を活かして、良い現場づくりのお手伝いというわけですね。

井戸:もちろん現場経験だけでは法人さんが抱える悩みのご支援なんてできません。ソーシャルワークも、現場マネジメントも、人材育成も、理論や数字的なことなどあらゆる側面から取り組むことが必要です。

 

金山:なるほど、まさに介護現場という組織、そこではたらく人たちの自立支援をしたいということなんですね。対象は変わっても、ソーシャルワーカーとしての井戸さんは変わっていませんね。

 

井戸:そういう金山さんも昔からソーシャルワークができる介護福祉職ということを方々で発言していましたね。

 

金山:そうですね。井戸さんと初めてお会いしたのは、僕が書いていたブログや井戸さんが書いていたWeb記事を通じてやり取りがあって、僕が井戸さんに会いに行ったのがきっかけでしたね。

 

井戸:若くてかっこよくて、知的好奇心に溢れている金山さんとの出会いは衝撃でしたね。研ぎ澄まされたナイフのように介護についてディスカッションして、相手を論破しまくってましたね。

 

金山:お恥ずかしいです。若気の至りです。井戸さんも相手の意見を受容しているようで、最終的にはコテンパンに論破するような変人でしたよ。

 

井戸:お互い丸くなったね。良い介護っていうのが、個人の専門職としての専門性として探求されていた時代かな。

 

金山:それが今は個々人の介護職員が組織、チームとして機能するということにこそ介護福祉の質を求める時代になってきましたね。毎年数万人の新人介護職員が増えているという、日本でも類を見ない職業ですから、人材の多様性を包み込んで、組織が良い介護を示して、それができる組織づくり、人材育成をしなければ良い介護ができない。下手をすると利用者の害になる介護になってしまう、そんな時代ですね。「利用者のために」という前に「職員の健全な労働環境」が先になったと感じます。

井戸:理想的な介護を探求することを僕は諦めていなくて、良い介護をしたいからこそ、介護人材が自立的に介護に取り組み、組織全体で質の向上を目指す現場づくりが健全なのだと思うようになりました。紆余曲折ありましたが、自分が現場やさまざまな人たちから学んだことを、今度は全国の仲間と共に現場づくりという形で実践する道を選んで、I DOを立ち上げたという流れですね。

 

金山:コロナ禍になる前までは、その想いをリアルで、現場に入り込んだり、対面で色んな人に向き合って実践されてきたんですね。ところがそれがコロナ禍になって大きく変わることになった。

 

井戸:まさにそうですね。今では日常生活に溶け込むほど当たり前になったzoomも当時は知らない人の方が多かった。何はともあれ未知の感染症でしたから、まずは介護現場における感染症対策について仲間の協力を得て緊急のオンラインセミナーを開催しました。やはり関心も高かったようで、かなりの方に受講いただいて、追加セミナーを開催したくらいでした。

 

金山:そうですよね。人と接触してはいけない、でも最前線の現場で感染症対策をどうするのか。僕自身も感染症対策、スタンダードプリコーションなんて全然理解していなかったんだと痛感しましたよ。

 

井戸:もちろんテーマである感染症対策という内容は大きく注目されました。だけど、それ以上に僕はオンラインで全国、世界の人と出会えること、時間と場所の制約がなくなったことの価値に震えました。これは介護現場を変えられる、と思いました。実際、コロナが広がる中では対面以外で人と人がつながり続ける方法が最も重要になるとも思っていたので。

 

金山:そこから3年間オンラインセミナーを進化させ続けてきたんですね。ということで、今回はその3年間で井戸さんが至ったオンラインセミナーの可能性と課題について話すということですね。

 

井戸:そうそう、対談企画の背景をまとめていただいて、ありがとうございます。

 

金山:では、早速本題に入っていきましょうか。

 

2.オンラインセミナーの可能性に気づいた

金山:元々IDOさんは研修事業はやっていたんですよね。

 

井戸:そうですね。オンラインの無限の可能性に気付いたのはいいんだけど、当時は僕もzoomの基本機能もよくわからなかったから、まずはこのツールを知ることをやりましたね。

 

金山:使い方ってことですか?

 

井戸:まぁそうだね。普通のルームとウェビナーの違いもわからなかったし、ブレイクアウトルームや画面共有だって最初わからなかったからね。

 

金山:それが今では多くの方が、操作できるようになりましたね。日本人のI Tリテラシーが5〜10年早く高まったなんていう人もいましたね。

井戸:まぁ、いずれにせよコロナで打撃を受けた業界があるように、I D Oも対面や訪問が基本の事業スタイルだったし、介護福祉という業態そのものが人と人とが接することに価値がある仕事だから、それを補完するためのツールとしても、オンラインを知らなければならないという危機感はあったよね。

 

金山:そりゃそうですね。当時、緊急事態宣言下でガラガラの通勤電車の中で「あ、自分は今介護業界だから仕事があるんだ。だから通勤できているんだな。幸せだな」と思ったことを思い出しましたよ。

 

井戸:まずは場数を踏むという意味でも、金山さんにもご協力いただきましたが、多くの講師の方をお招きして、オンラインセミナーを何度も開催しましたね。当時は単発のセミナーも多くて、受講者の反応なども含めて、いろいろな意味で試行錯誤していたと思います。

金山:最初の頃の感覚として、オンラインセミナーの可能性と課題はいかがでしたか。

 

井戸:まず可能性からいうと、先ほども言ったように、時間と場所の制約がなくなったこと、人と人との接触が避けられる中でつながりを感じられること、そのものが大きな可能性だと思いましたね。

 

金山:人との接触、絆。なんかS N Sで「みんな頑張ろう」みたいなつながり合おうとする投稿も多かったですよね。オンラインでしか人と関わる実感が持てなかった頃というか。

 

井戸:あとは、僕自身が関心のある、みんなに聞いてほしいと思う素敵な講師をこれまでよりかなり低いハードルでお招きできるようになったこと。そして、たくさんの人に聞いてもらえる機会ができたことですね。

 

金山:確かに、無料セミナーはもちろん、他業界でも著名な方のセミナーに参加するハードルは低くなりましたね。

 

井戸:まぁ、冷静に見ると、オンライントいう新たなつながりのツールに誰もが興奮していた頃とも言えるかな。僕自身もそういうところがあったかもしれない。

金山:なるほど、一種の流行のピークだった頃ということで、可能性をたくさん感じていたということですね。では、逆に課題は。

 

井戸:一つは皆さんのリテラシーの課題ですね。僕自身もそうでしたけど、使い方がわからないっていう状態でしたから。わかる人と知らない人の格差が広がってしまう、つまりは人との繋がりから取り残される人が出てきてしまう可能性を危惧しましたね。

 

金山:オンラインで遠くの人と学び合えることから取り残される人が出てくるということですか。

 

井戸:もちろんそれもあるけど、一番危惧したのは、職場、つまり介護現場の仲間の中でつながりの希薄さが加速するんじゃないかなと思ったわけ。

 

金山:オンラインセミナーの話からちょっと飛躍する気もしますが。

 

井戸:やっぱりソーシャルワーカーだからね。人と人が多様な価値観を有しながらも同じ環境の中で包摂される、ソーシャルインクルージョンの理念があるけど、実際はこのままだと新しいツールがわかる人と知らない人で格差が広がるだろうなと思ったわけ。当時はどっかの国の大統領もすごい発言で国が分断してた頃だしね。

僕はそういう持つもの持たざるもの、みたいなことの先に取り残される人や派閥、排除が生まれちゃうんじゃないかなって。そうすると、組織が変な感じになっちゃうじゃないですか。

 

金山:本来一緒に考え、働くべき組織の中の人たちの中でも壁ができちゃうんじゃないかなってことですか。

 

井戸:まぁ、感覚だけどね。シンプルに、職場の人と飲み会とかできなくなっちゃうわけだから。マスクで新人さんの素顔もわからない。あの人誰だっけ。昼食も離れて黙食。ピリピリして、感染させちゃダメとかね。そういう現場の中で発生したわずかな距離がこの先どんどん大きくなって壁になっていくだろうなって。それに、研修だって、それまでは、組織の限られた人だけが受けにいくものだった。年に3回くらい会議のついでに研修っぽいことを受けるだけ。会議の時間に出られなきゃ研修自体受けたことないみたいな人も実際いた。だから、オンラインの可能性は逆にこの壁を取っ払える武器にもなるって思った感じかな。

 

金山:なるほど、物理的にもデジタル的にも少しずつ人と人との距離ができることが、社会や組織の中の壁につながる。それ自体は良い介護を現場と一緒に作ってきた井戸さんとしては危機感でしかなかったと。だからこそ、オンラインセミナーの可能性も同時に感じたってことなんですね。

 

井戸:そうそう。おっしゃる通りです。

 

金山:じゃあ、コロナ禍でオンラインセミナーの可能性と課題を感じた井戸さんが、そのあとI D Oオンラインセミナーをどうやって進化させていって、そしてその可能性と課題を今どう思うのか続きにいきましょう。

 

★「後編」は後日掲載予定です。お楽しみに。

 

 

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